日記

地下鉄の波

渋谷駅から電車に乗った時、波の高さは1m程度だった。

しかし途中で海が荒れだし一挙に波高5m。それは第1波と呼ぶに値するものだ。
ただ、46年も生きていれば経験則として知っている。ジタバタする必要はない。

いや楽しみですらあるのだ。
あと20分後には事務所に着く。そこで波など岩場で大きく砕け散ればいいのだ。

それに、肉体的だけでなく精神的にも余裕があった。
そういえば、ストッパって本当に速攻で効くんだろうか・・・試すチャンスかも。
しかし、一番ニーズの高そうな駅の売店では売ってなかった。薬だからか。

そうこうしてるうちに、東銀座駅に到着する。
薬局といえばあの古い店しかない。一応のぞいてみたがやはり売ってなかった。
しかたない。薬を試すのはあきらめて波が砕けるのをエンジョイする事にした。

駅から事務所まで3分ほどだが、途中に本屋がある。
ふと思い出した。本屋にいると不思議と波が高くなることを。
余裕のある時はお茶目さん。逆にぎりぎりまで波を高くしたくなるものだ。

だが、書店に足を踏み入れたとたん、突然、第2波がやってきた。これはでかい。
46年の経験則は叫んでいた。 絶対に第2波をナメてはいけない。絶対に。
私は躊躇することなくUターンして書店を出た。

なんと事務所のエレベータは2基とも上に向かっていた。こんな時に限って。
「おいおい、上に行くのは一つでいいだろ、二人揃って…ったくぅ」

エレベータを降りるとき私は見えない額の汗をぬぐいながら中腰になっていた。
天国の扉を開け、両ほっぺをピタッとくっつけたまま、しなやかに素早く座る。

そう、まるでアクション映画のお約束。 爆発1秒前で間一髪間に合った。
間にあってなかったら、この話は波と一緒に砕け散って消えていただろう。

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