思考:思考の散歩

起業物語 Season1 最終話

今月に入ってからも色々なことがあったが、この日、とりわけ自分にとって”時代のひと区切り”と感じる出来事があった。
それは、以前、起業前に勤めていた会社の社長と会ったことだ。
その会社には長年勤めていた。
2000年、35歳のとき独立起業したのだが、もちろんそれまでにも幾度となく独立起業を考えていた。
しかし、小さな会社だが当時いわゆるNo2という立場でもあり、業績的にも自分の存在は不可欠だと考えていたので、後輩が独立起業しようが、自分の実力に確信がもてようが、退社という選択肢はとても考えづらかった。
当時、私は何人かの友人にこう話していた。
「自分で会社を興したいとは思う・・・けど、俺が居なくなったら会社は大変だし、お世話になった社長を裏切るわけにはいかない。 だから・・・できないんだ」 と。
それは、100%本心だった。
しかし、心のどこかに不安があったのも事実。
家を買ったばかりで小さい子供もいるのに、1000万の年収を捨てて本当にできるのか。
不安の裏返しで、社長を裏切れないとか会社に迷惑がかかるからなんて言い訳をしているのではないか。
そんな2000年の3月。 ある友人とこの話していた。
「俺は自信あるしデキると思うねんけど、社長に迷惑はかけれないし・・・」
と言いかけたところで、誰とも違う反応が返ってきた。
「やってみたらええやん」
??? いや、でも、会社に迷惑がかかるし・・・。
「会社を興して、その会社よりも大きくなったらええねん。
立派な会社を作ったらええねん。
そしたらその社長もいつの日か、ようやったなと認めてくれると思うよ」
一瞬あっけにとられながらも、次の瞬間、ズバーン!と胸に刺さった
そして、すべてが変わった。
その日、起業の決意として心に誓った。
「俺は35歳、もう時間を無駄にはできない。これからは自分の人生を歩むのだ。
やる限りはあの社長を追い抜く。
しかも、誠実かつ正々堂々と勝たなければならない。
それまで誤解や不信を受けようとも、自分を追い抜く弟子の姿をみたとき、
素直によくやったと認めてくれる日がくるのだ。
だから、恩返しのつもりで勝たなければならない」
3月に起業を決意し、しばらくビジネスプランを模索して5月のゴールデンウィークには家に閉じこもって事業計画書を書き上げ、7月に会社をスタートさせた。
ターゲット層は少し違うが、同業種なので競合する可能性もあった。
だから当然の礼儀として、1件たりとも以前の顧客にコンタクトを取ることなく、すべてを0の状態から始めた。言うまでもなく当たり前だが、もし競合しても相手の悪口になることは一切言わない。
この起業の経緯は、会社の全体会議でも2回ほど話したことがある。
ついに起業して7年目の2007年、その会社の年商を抜いた。
数人で小さな祝勝会をあげた時、とめようもなく嗚咽をあげて泣いた。
「俺は今日死んでもいい!」と、号泣しながら何度も言った。
年商を抜いたらあの社長に報告しに行こうと思っていた。
その日を夢見てやってきたのだから。
でも、行かないことにした。
そんなことを報告しに行く俺はおそらく、「あなたに勝ったよ」という顔をした安っぽく無礼な男だ。
考えてみれば、認められる言葉をもらわなくても、その目的があったおかげで会社も自分も成長できたのだ。
もう、すでにたくさんのことを貰っていることに気付いたら、何か急にさっぱりして、勝利宣言をしにいく必要もないし、まったく知られなくてもいいのだと思えた。
年商は10億を少し超えたくらいだったけど、そこで気持ちが一区切りついていた。
それから2年間、ずっと心の中で葛藤していた。
年商をもっともっと大きくし社員を何百人と増やす。そんな表面的なことに意欲がわかなかった。
でも、社長がそんな気持ちでは社員に夢を与えることができない、活躍の場を作ってあげることができない、将来のVisionが語れない。
だから100億の会社にするぞ!と宣言し、後に戻れないよう新規事業に投資し、そう思いこもうと自身を洗脳するようにしていた。
でも、本心が望んでいなかった。
3年目に入り、もうこれ以上自分をごまかせなくてM&Aで事業譲渡を行った。
会社をガンガン成長させる意欲に満ちた人が社長でなければならない。
会社は夢とチャンスのあふれる場でなければならない。
もうすでに、この会社は皆の人生に深く入り込んでいるのだ。
会社を離れてから3か月半。
この環境にあって新社長と社員は増収増益で会社を躍進させてくれている。
本当に嬉しくて、心から感謝している。
話は最初に戻るが、以前勤めていたあの会社が残念ながらこの3月に倒産した。
倒産する少し前に社長から電話を頂き「今回こういうことにした」と報告を聞いた。
数年ぶりの会話が「長年頑張ってきたけど今回はダメだ」というのは残念だった。
20代30代に関わった会社の歴史が閉じ、青春が思い出に風化する気がした。
そして、それから3ヵ月程たったこの日、その社長から電話が入った。
「こっちも少し落ち着いてきたから、久しぶりに会わないか」と。
私はもちろんとても会いたくて、早速お菓子を持ってご自宅へおじゃました。
奥さんやお嬢さんもいて、アットホームななかお茶を頂きながらお話をした。
数年ぶりなのに変な緊張もなく力むこともなく、穏やかで幸せな時だった。
そして、「ワシは最後ちょっとうまくいかんかったけど、お前はよーやったな」と言って下さった。
外は雨が降っていた。
ご自宅をあとにして帰る車のなか、たまに動くワイパーの動きをぼんやり眺めながら、色々な思いがめぐっていた。
2000年3月に決意したあの日から、9年後のこの日まで。
それが一つの起業物語であったように思え、
この日、最終話で完結した気がした。
人生って面白いなぁ。

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