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緊張と緩和


今回はWaikikiビーチでよくみかけるサンセットセーリングをした。
カタマラン(双胴船)だったが、まったく予想外に爆走してかっ飛んだ。
風も強かったが艇速20ノット以上は出ていたはず。1ポンリーフ(1段縮帆)で。
普通5ノットで良いとこ。20ノットはモーターボートに乗ってる感じ。
想像以上に素晴らしいセーリングだったが、帰港時に思わぬトラブルが発生した。
沖でセールダウンし、いざ2機のエンジンをかけようとしたら1機がかからない。
客は若いカップルから家族ずれまで30人以上乗っていた。
私は様子がおかしいのに気づいてクルーの対応を遠巻きで見ていた。
クルーは何も問題ないそぶりで、客の女性とチンタラ会話しながらあれこれ試している様子。
その間も、ヨットの上ではカクテルと大音量のファンキーサウンドでアメリカ人は踊りまくっていた。
子供を連れた年配の女性が「どうしたのか?」と尋ねていたが、クルーは思いつきで「ちょうどサンセットだからそれを見てから」などと説明していた。
7時にはビーチへ到着するはずが、7時を過ぎても沖から戻れない状態。
しかし、1時間経っても船は一向に直進できる気配がなく、2名のクルーもそろそろ誤魔化せず本気で修理や携帯で連絡を取り始めた。
夏場は日が落ち始めると陸と海の温度差で風は吹きあがってくるが、やはりハワイでも同様に風はどんどん吹き上がってきた。
セールをあげず機走もしていない船は風と波で嫌な揺れ方をする。
しかも、日が落ちてあたりは真っ暗になってきた。
こんな状況でも、クルーは客に不安を抱かせないためか、もしくは本気で脳天気かファンキーミュージックが大音量で鳴り響いている。
問題が起こったとき、船長でも社長でもリーダーは動揺したそぶりを見せてはいけないのは分かるけど、どうにもアメリカらしい上っ面で不自然な光景だった。
クルーがエンジンの状況をみているとき、ふとガソリンの臭いがした。
携帯で連絡している会話を聞いていると、燃料がうまく回っていないらしい。
エンジンがかからなくても、携帯で連絡を取り応援を頼むことができるのであまり心配する必要はないが、ガソリンに着火したり、酔った客が落水する2次災害を想定しておく必要がでてきた。
パニック状態になるとぶっちゃけアメリカ人という人種は信用できない。
念のため、妻を連れてライフジャケット設置場所に近い所へ移動した。
8時を過ぎて気温がぐっと下がり、強風でガタガタ震えるほど寒くなっていた。
先ほどから気になっている小さな女の子二人を連れた4人家族がいた。
サンセットクルージングなのでTシャツ姿。少女は不安と寒さで泣いている。
私は来ていたパーカーを父親に抱かれた少女にかけてあげた。
もちろん、見ているだけでも可哀そうだったからだけど、本心ではもう一つの気持ちがあった。
乗客は30名以上だったが、日本人というかアジア系は私たち夫婦2人だけ。
私たち日本人は、泣いてる少女を前に酒飲んでバカ騒ぎする人種とは違うのだという大和アイデンティティが芽生えてきた。
パーカーを脱いで少女にかける自分の背中にはデッカイ日の丸を背負っている気分だった。と書くとタイタニック的だが、もちろん、そんなたいそうな話ではない。
そうしているうちに救援のヨットが来たりして、出航場所とは違うが9時前にはハーバーに入港できた。
ハーバーに入港したとたん何人かの客がクルーに対して「Good job!」なんて言って拍手をしていたが、私は拍手なんてしたくなかった。
エンジントラブルは確かにアクシデントかもしれない。しかし1時間近く適切な処理もせず、多くの客を不安と危険にさらしたのは船長の怠慢だった。
自分ならどうすべきか、色々と考えさせられる体験だ。
駅前Teacherに勧められた「BlackSwan」の翻訳版が最近発刊されたのでちょうどこのハワイで読み始めていたが、その中によく似た話が載っていた。
9・11のあとすぐにNY証券取引所を再開させた会長はヒーローとして絶賛され巨額のボーナスを受け取ったそうだが、9・11的な大事件を未然に防いでいるであろう影のヒーローたちは、事件が起こらなかったからこそ、役割を果たしたからこそ誰にも知られずボーナスも絶賛もないパラドックスにある。
そんな話を思い出した。
日産を立て直したカルロス・ゴーンはもちろんヒーローだが、長年に渡りそこまでの状況にさせなかったホンダやトヨタの社長。名前がパッとでてこない彼らこそ本物のヒーローではないだろうか。
ハーバーについてホテルに戻る途中、和食の店をみつけた。
芯から体が冷え切っていた私たちは、迷わず鍋焼きうどんと握り寿司の盛り合わせをオーダーした。
真っ暗な海でプチ遭難したあとの鍋焼きうどんは心も体も温めてくれた。
緊張のあとの緩和は、今夜の食事をいっそう美味しくさせるスパイス。鍋焼きうどんのおかげで、トラブルも人間観察も体験としてポジティブに受け止めた。

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