今日、本屋に立ち寄ったら1冊の本が目にとまった。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』藤尾秀昭(著)

手に取ってパラっとページをめくれば、1月1日から始まり12月31日まで、1日1ページごと、尊敬に値する著名な方々の仕事に対する熱い思いが書かれている。

次に巻末の著者経歴を見てみると、著者の藤尾秀昭氏は、月刊誌『致知』の代表取締役社長 兼 編集長とあり、それだけで本書の質の高さがうかがい知れる。で、即購入。

普段、早朝に本を読むので、気が向いたらその日のページをめくって “偶然の示唆” と出会うのも面白い。いわゆるセレンディピティ(予期せぬ、幸運との出会い)になり得る気もする。

さて、早速、本日3月5日を開いてみた。

今日は、あの日本一有名な鮨屋 銀座「すきやばし次郎」の主人のページであった。

読み方によっては、いかにも昔気質の鮨職人が語りそうなこと。
しかし、はたしてそれは、変化の激しい今の時代 “もう古い考え方” だと言えるのだろうか。
その答えは、人生も終盤に差し掛かったころに実感するのだろう。

以下、本書より抜粋して引用

3月5日 『教えてもらったことは忘れる』小野二郎(すきやばし次郎主人)

親方とか先輩に教えてもらおうと思って入ってくるのは大きな間違いで、自分が上の人のやり方を盗んで勉強し、進歩していかなければいけない。

というのは、教えてもらったことというのは忘れるんですよね。
自分が盗んだものは忘れない。

会社なんかでも同じだろうと思うんだけど、ポッと教えてやったら忘れちゃいます。
自分が苦労して苦労して、これを必ず自分のものにしようと思って、やっと盗んだものは決して忘れない。

だからうちの若い連中に、鮨の握り方を覚えろだのなんだのとは言わないですけど、皆、昼飯が終わると勉強をしています。そういうことを自発的にやれるようでなきゃダメですよ。

これは本人が自覚していくより他ないんです。
それができない人間では、一生良い職人にはなれませんね。
でも実際、この店に来て、まともにやって残るのは十年に一人か二人くらいでしょう。

だいたい、うちがこれだけ雑誌やテレビに出ても、ここで修業したいっていう子はめったにいませんよ。
自分が鮨屋になるのであれば、いい鮨屋でしっかり勉強したほうが、独立したときにいい仕事ができて、いいお客様を取れると思うんですよ。
でもそういう店は厳しいから嫌だという。

自分のわがまま放題、好き勝手なことをやって将来もずっと通るかといえば、私は通らないと思います。
何事も一番底辺から覚えていかなかったら、一人前にはなれません。
まず十年は辛抱しないと、その仕事をほんとに心から覚えていくことは難しい。

でも朝が早いから嫌だとか、夜遅いから嫌だとか、そういう人たちばっかり。
これは、人間の基礎ができてないんじゃないかと思うんです。

だから私はよく言うんです。一つの仕事を一生懸命やって、苦労して少しずつでも頭を持ち上げていったら、自分が将来一番楽だろうって。
一人前になって家庭を持った時でも、苦労が少なくて済むと思うんです。

若い時の10年を、基礎の叩き込みに充てるのはとても難しいことかもしれない。

しかし、多くの人は、住み込みの寿司職人見習いでもなければ、上から暴力暴言を浴び続ける下僕でもない。しっかり休日も有休もあれば、残業すらない時代なのだ。

「今どきの若いやつは」 VS 「昔と今とでは時代が違う」。
年十年、何百年も、世代が移り変わるごと順送りで繰り返されている老若問答ではあるが、「何ら犠牲を払わず己の人生をより良くできる基礎創りの、何が苦しいのか、何が難しいのか」と、先人が、子ども扱いで諭すのも無理はない。

人柄は10代で決まり、人生は20代でおおかた決まる。
・・・のかもしれないのだから。